「深呼吸がいいらしい」ということについては昨年12月29日のブログ「一読十笑百吸千字万歩」で簡単に触れた。
今日は、その深呼吸の大切さを理解するための手がかりとして「睡眠と呼吸の関係」について考えてみたい。
疲労回復には良質な睡眠が欠かせない。そして、良質な睡眠には深い呼吸が伴っているものである。ここでいう「深い呼吸」とはもちろん、単に空気の量を意味しているのではなく、ゆっくり、ゆったりとした呼吸のことである。
良質な睡眠に入ったときに深い呼吸が始まるのか、それとも深い呼吸をすると良質な睡眠が得られるのだろうか。前者については誰もが知り、また経験していることであろう。では後者についてはどうだろうか。おそらく普段あまり意識していな方もおられよう。この両者の関係について簡単に説明しておきたい。
睡眠の質は、体をリラックスした状態(鎮静状態)に導く副交感神経の働きが非常に重要となる。副交感神経とは、自分の意志とは関係なく働いて呼吸器、消化器、循環器等の活動を調整している自律神経(交感神経と副交感神経がある。交感神経は体の活動を活発な状態に導く)のこと。文字通り自律した神経のため、運動神経とは違って意識的にそれらをコントロールすることがほとんど出来ないと言われている。
副交感神経が優位になれば良質な睡眠が取れるとはいえ自分の意志で直接働きかけることがほとんど出来ないところに難しさがあるのだけれども、唯一、意図的に簡単に副交感神経にアプローチする方法がある。それが「深い呼吸」である。大きく吸って、5~7秒とめた後ゆっくりと吐き出すような呼吸によって半強制的に体がリラックスされていく。良質な睡眠に入った後に深い呼吸が起こるという誰もが経験する順序がある一方で、深い呼吸を行うことで良質な睡眠が得られやすくなるという順序も存在するのである。
男性は30歳頃から、女性は40歳を過ぎたあたりから少しずつ交感神経が優位となりやすい状態になっていき、これが、睡眠が浅くなったり疲れが抜けにくい体になる大きな要因になると指摘されている。これらの年齢を過ぎたら時々意識して深い呼吸を行うことをおすすめしたい。
―――数日前にここまで書いたのだが、その後立て続けに疲労と副交感神経と深呼吸に関する健康番組や記事を2、3目にした。私自身がこれらのことについて書いているから余計に目に留まるという心理的な作用を勘案しても、深呼吸と副交感神経と疲労回復について世間の関心が高まっていることは間違いない。―――
さて、ここからはさらに一歩踏み込んで「整体と呼吸」の関係について述べたい。
私のところに施術を受けに来られる方のなかにしばしば、「体が疲れて硬くて、呼吸が深く出来ない」という表現をされる方がいらっしゃる。このような愁訴の大きな要因の一つに先述した「自律神経」の影響がある場合が多い。体の活動を活発な状態に導く交感神経の優位状態が長く続くと睡眠の質の低下や筋肉の緊張につながり、さらには肺を取り囲んでいる胸郭全体の動きも悪くなって呼吸が浅くなり、それがまた睡眠の質を下げるという「負のスパイラル」に陥ることになる。こういった場合、そもそもの原因つまり交感神経の活動を高めてしまうような生活環境や習慣の改善ということが重要なのは言うまでもないが、その環境や習慣が仕事など変えることの出来ないものの場合はどうしようもない。
そこで当院の整体では胸郭や筋肉の緊張を緩め、それらの動きをよくすることで深い呼吸を取り戻していく。一見、順序が逆のようにも見えるが、そこは「睡眠と呼吸の関係」のようにそれぞれが影響し合っていて、実際に胸郭全体を緩めていくと呼吸が深くなる。呼吸が深くなっていくと副交感神経へのアプローチとなり、良質の睡眠へとつながり、疲れにくい体になっていく。
整体を受けるだけでなく、自宅でも自分で出来るセルフ整体を習慣にしていくことが望ましい。ストレッチ体操以外にも、胸郭やその付近の筋肉にアプローチ出来る健康グッズを用いて自宅でセルフ整体が出来るようにしておくことは大変有効である。